経営

顔認証のターゲット広告とプライバシー権

2002年公開のSF映画『マイノリティ・リポート(The Minority Report)』(監督:スティーヴン・スピルバーグ)はアクション、犯罪陰謀の推理、そして登場人物それぞれの感情が複雑に絡み合いながら急速に展開する素晴らしいエンターテインメントだが、西暦2054年という未来の描写も多くのSFファンを惹き付けた。

主人公である刑事ジョン・アンダートン(主演:トム・クルーズ)が罠に嵌められ街中を逃亡するシーンでは、電子化された街頭広告のセンサーが数メートル離れた所から

次々とジョンの網膜を読み取り、「ジョン・アンダートンさん、◯◯はいかが?」

と個々人に特定した広告を音声と画像を流した。たった数秒のシーンだったが、未来の広告のあり方として強く印象に残った。

2019年現在、売り込む相手についての情報を自動的に利用する「Targeted Advertisement(ターゲット広告)」は既にインターネット・SNS・オンライン広告で主流だが、街中の広告での使用も始まったようである。

タクシーの後部座席タブレットが自動で顔写真を

最近タクシーで後部座席の乗客向けにタブレット型スクリーンが設置してある車両が増えている。タクシー業界大手の日本交通が2016年頃から徐々に広めてきたが、現在日本交通の関連会社である Japan Taxi株式会社が運営している。タブレットのカメラが乗客全員の顔写真を自動的に撮影し、性別を推定し、それに合わせた広告配信をしている。海外でも走行地域や時間帯等で広告を調整するサービスはあるが、顔認証については日本が先行しているようだ。

ただし、インターネットやSNSでのように、ターゲット広告は「プライバシー権」について問題を多く含んでいる。Japan Taxiはプライバシーポリシーについての説明・同意のプロセスが不十分だったと、タクシーの位置情報については昨年10月に広告への利用を停止している。また、個人情報保護委員会はカメラの存在・利用目的の通知公表が不十分だと同社を指導している。現在は説明が画面に表示され、位置情報は取得せず、顔写真は性別推定直後に端末にて破棄しているそうだ。

自分が自分である為のプライバシー権

新たな生活や経済を豊かにするべくIT技術だが、ターゲット広告に限らず技術革新は常に諸刃の剣で、不本意な結果に繋がる可能性も大きい。プライバシー権についての法制度は世界各国異なるが、日本では一般認知が低いように思われる。サービス提供側は法的解釈をしっかりと留意しながら、利用側は(IT技術の)乱用者から身を守る意識が必要である。

ターゲット広告から話がズレてしまうが、プライバシー権について補足すると、警察によるGPS捜査(被疑者へ秘密裏にGPS情報を利用)が2017年3月の最高裁判決で初めて「令状が必要」「立法的な措置が講じられる事が望ましい」とされたが、法制化については具体化が進んでいない。繰り返しになるが、IT技術の進展について、その理解と自分の生活へのリスクについて無視をする事はできない。

特に隠す事の無い人の多くは別にプライバシー権が気にならないかもしれない。しかし、

「それ(無関心さ)は話したい事がなければ言論の自由は必要無いというのと同じくらい危険なことだ。プライバシーは悪い事を隠すためでなく、自分が自分であるために必要な権利だ」(エドワードスノーデン)

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