昨日(7月2日)米上院は対中制裁法案(香港自治法案)を可決、トランプ大統領の署名待ちだ。同法案は中国による香港の統制を強める「香港国家安全法」への制裁であり、香港の自治が侵害された場合、関与した中国当局者やその取引のある金融機関等との活動を凍結/禁止する。米中摩擦が再びヒートアップしている。
これを機に、小池都知事や日本の政治家が「香港の金融人材を日本/東京へ受け入れたい」、「東京を再びアジアの金融拠点に」と意気込んでいる。
そもそもFINTECHイノベーションが進んでおり、金融業では業務のDX(デジタルトランスフォーメーション)で業界全体で頭数人口が向こう5年で激減する見通しだ。人材を誘致するよりも、(東京にいなくても)東京/日本の金融市場やそのプラットフォームを価値ある資産が通過する仕組みを誘致した方が良いと思うのだが、、、。
それはさておき、香港からの金融人材誘致このトピックについて誤認している人も多く、いくつか重要なポイントを説明したい。
香港金融市場は「中国経済への窓口」で、本土との繋がりが重要
香港における金融市場とその内容はここ20年で大きく変わっており、「中国経済への窓口」としてのステータスになっている。香港証券取引所の時価総額の約8割弱、2020年第1四半期のIPOでは約65%が中国本土の企業だ(関係会社含む)。政治イデオロギーを別にすると、ローカルの金融関係者は「香港国家安全法」は中国本土の経済成長をより多く取り込めるとの考えも多い。
米中摩擦や対中制裁法案が香港金融市場をより魅力的に
米国による対中制裁法案も、施行されれば米国の各証券市場に上場している中国企業が香港市場へ移るケースが増加する(既に昨年の米中摩擦からこの傾向はある)。昨年の調査(米中経済・安全保障問題検討委員会)では156の中国企業が米国市場に上場しており、その時価総額は1.2兆米ドル(約130兆円)。中国企業の成長は著しく、時価総額38兆HKドル(約530兆円)の香港市場にとっては嬉しい話だ。
つまり、香港における金融市場関係者のうち、中国経済の成長を世界と繋く人材(頭数で恐らく全体の7-8割)は左団扇である。香港証券取引所におけるIPOの約20%強が香港及びマカオ企業であり、これを取り扱っている人材も特に日本への出国ニーズが高いとは思えない。
中国本土や香港ローカル事業とは関係の無い人材が誘致対象
先述の通り政治イデオロギーを除けば、香港の金融市場関係者で出国/移転ニーズがある人口は銀行・証券・資産運用会社の約5-10%かと思われる。香港における銀行(証券含む)とその他金融(資産運用含む)従事者人口は19万人弱なので、約1-2万人弱が日本にとっての誘致対象か。
蛇足
筆者は香港が好きだ。1990年前後に学生の頃に旅行やアルバイトで滞在した時は返還前で、熱気に溢れて今を生きるアジアと歴史とスタイルの塊である英国が一体化しており、これぞ坩堝という興奮を覚えた。返還されてから仕事で訪れたり住んだりした時は、驚くスピードで中国本土の文化・雰囲気・生活様式諸々を取り入れていった。受ける刺激は異なるが、どのタイミングでも好きな行先だ。