FATCA(Foreign Account Tax Compliance Act)を施行して約10年、米国が在外国民による租税回避行為を厳しく取り締まっているコトは有名だ。今となっては世界中どこの銀行に口座があっても米国民であればその情報はIRS(Internal Revenue Service; 米国の所謂国税庁)へ報告されており、米国民に納税義務からの逃げ場は無い。正確には現ナマのタンス預金や暗号資産等の抜け道もあるのかもしれないが、『金融機関』の口座にはもう資産を隠せない。
香港やマカオで働いている中国出身者が新たな対象に
2015~2017年には香港と中国を含む世界100ヶ国以上で類似租税条約が整備された。直近では中国本土から香港やマカオに移り住んだホワイトカラーが焦点になっているらしい。
中国本土の取得税率は上限が45%なのに対し、香港が15%、マカオが12%。在外中国市民はこの差額(30%前後)を中国政府に納めろ、というコトらしい。公のアナウンスメントは無いが、個別に納税通知が届けられているようだ。
香港からは人材が流出
過去5年間で香港移民局は34万人を超す移民VISAを中国本土出身者に与えている。一方、以前書いたように(「香港金融市場の立ち位置は?」)香港金融界で働く中国本土関連の業務を行う人口は17万~18万人と想定される。
マカオは兎も角、香港で生活するコストはとても高く、取得税の徴収がこのように強化されるのであれば、香港からの人材(特に中国市民)の流出がおこるかもしれない。
人事関連分野に強いコンサル Mercer社の調査(Mercer 2020 Cost of Living Ranking)によると、生活コストの高さランキングは以下:
1.香港
2.トルクメニスタン
3.東京
4.チューリッヒ
5.シンガポール
上海は7位、北京が10位
狙いの先にあるものが何なのか?
中国による徴税強化の矛先が今後どの方向性に向くか注目である。
国際的に優秀な香港ワーカーを中国本土の北京・上海・広州諸々へとリロケートし、本土経済の活性化を狙った政策とすれば、賢い。香港の物価は下落するかもしれないが、それが香港住民にとって必ずしも悪いコトでないかもしれない。